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東京高等裁判所 平成元年(行コ)45号 判決

控訴人

別紙(略―長山章外一八名)

控訴人目録記載のとおり

右訴訟代理人弁護士

佐藤義彌

駿河哲男

竹沢哲夫

小池貞夫

被控訴人

右代表者法務大臣

長谷川信

右指定代理人

飯村敏明

中川清秀

西田俊一

武井豊

後藤和久

新野忠

黒沢哲夫

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

一  控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人は、控訴人らに対し、それぞれ別紙債権目録中の『債権額』欄記載の各金員及びこれに対する昭和五八年四月二六日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」の判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、原判決一七頁一〇行目の「公共企業体等労働関係法」の次に「(昭和六一年法律第九三号により法律名が『国営企業労働関係法』と改正された。)」を加え、次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示記載のとおりであるから、これをここに引用する。

(控訴人)

労使間において、給与法の規定のシステムを前提として、そのシステムに則るものとして団体交渉が行われ、協約が締結された場合に、給与改定が四月一日に遡ったときには、給与法のシステムと同様に、夏期及び年末手当も当然に改定された給与に基づき算出され、差額支給がされることになる。全林野と林野庁当局は、公労法の適用とともに、昭和二八年に「労働条件の暫定的取り扱いに関する協定」(以下「原始協定」という。)を締結したが、原始協定においても、公務員法をはじめ一般職の職員に関する諸規制は、従来どおり労使の合意に基づくものとして適用することとされ、昭和三二年の協約でも、協約に定めのない事項については従前の例によることとされたのであり、給与法のシステムは、原始協定以来、労使の合意の内容となっている。したがって、給与の改定が遡求してなされた場合に、手当につき差額支給を要しないこととするためには、給与法ではその旨の規定を必要とするが、公労法の下ではそれに対応する労使の合意が必要である。全林野と林野庁当局との協約がこのように給与法と同じシステムになっているのは、昭和二三年の給与法制定から昭和二六年の企業官庁職員給与棒給表の制定を経て、昭和二八年に林野庁職員のうち現業部門が公労法適用下に入るまで、給与特例法の適用下の労使の賃金協約は、給与法に準じたものから徐々に切り替える方式で策定されていることによるものであり、また、林野庁職員には給与法の適用を受ける非現業職員が含まれており、人事異動により、協約適用者から給与法適用者に替わり、またその逆の場合も出てくるので、協約を策定する場合にも給与法の規定システムに準じることが合理的だからである。

(被控訴人)

控訴人の右主張は争う。

三 証拠関係(略)

理由

一  当裁判所も、控訴人らの本訴請求は理由がなく、棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり、付加し、訂正し、削除するほかは、原判決理由説示のとおりであるから、これをここに引用する。

1  原判決二九頁一〇行目の〔労判五三九号66頁2段目20~21行目〕「その都度その旨の合意即ち」を削除し、同三〇頁二行目〔同25行目〕の「なお」から同九行目末尾〔同3段目8行目〕までを削除し、同三二頁八行目〔同4段目5行目末~6行目〕の「こととし」を「との交渉方針を決め」と、同三三頁二行目から三行目〔同段17~19行目〕にかけての、及び同三四頁九行目から一〇行目〔同67頁1段目19~21行目〕にかけての各「基準内給与・賃金を改定前のものとするか、改定後のものとするか」を「給与月額の取扱い」と各改め、同三五頁一行目〔同段25行目〕の「もって」の次に「、本件夏期及び年末手当の支給に関する協約締結の際はもちろんのこと、本件一部改正協約の締結に際して」を加える。

2  同三五頁三行目〔同段29行目〕の次に改行の上、次のとおり加える。

「 控訴人らは、給与法においては、給与改定が四月一日に遡った場合には夏期及び期末手当も改定され、差額支給がされるのであって、差額支給を要しない場合には、その旨の規定を必要とするが、本件においては、給与法と同一のシステムによる旨の合意が全林野と当局との間に存したのであるから、差額支給をしない旨の合意がない以上、給与法と同様に、当然に差額が支給されるべきである旨主張する。

しかしながら、給与法の適用のある一般職の国家公務員については、手当も含めて給与等は給与法の定めによるから、給与法の改正により遡って俸給が改定された場合に手当等も遡って改定するか否かは、国会が給与法改正の都度決すべきことである。ただ、給与法においては、期末手当等は職員が受けるべき俸給の額に一定の割合を乗じて得た額を基準にすると規定されている(同法一九条の三、一九条の四)ため、立法技術上、俸給が遡って改定され、期末手当等は遡って改定しない場合にはその旨の規定を必要とするに過ぎない。昭和五七年の給与法改正において、一般職の国家公務員について、俸給の改定を過去の期末手当等に影響させないこととし、その旨の規定が置かれたのは、このような立法技術上の制約によるものである。

そして、公労法の適用のある職員に係る賃金等の労働条件に関する事項は、前示のとおり、第一次的には、労使間の交渉とこれに基づく労働協約によって決定されるべきことであるから、基準内給与・賃金が遡って改定された場合に過去の夏期及び期末手当を改定するか否かは、労使の交渉と、それに基づく協約によるべきものであり、右協約の解釈に当たっては、当該協約の文言のみでなく、協約に至った経過を考慮し、その合意の内容を理解すべきである(この決定方法について林野当局と全林野との間に一般的な合意が存したことを認めるに足りる証拠はない。)ところ、本件夏期及び年末手当の支給に関する協約はもちろんのこと、本件一部改正協約が、基準内給与・賃金が改定された場合に自動的に期末手当等の手当が遡って改定されることを定めたものではないことは、前示のとおりである以上、本件一部改正協約附則の文言が前示のとおりであることが、差額支給についての前示の判断を左右するものではない。

また、昭和五七年度の国有林野事業特別会計において控訴人ら主張の予算措置がされていることは前示のとおりであるが、昭和四五年度から昭和五六年度に至るまで手当についても毎年遡って改定された前示の経緯に鑑みれば、右予算処置は予算決定時に予測された事態に対応したものとは認められるものの、これによって具体的な協約なくして夏期及び期末手当が遡って改定されることを意味するものではない。

控訴人らの前記主張は採用することができない。」

3  同三六頁一行目〔同2段目15行目〕の「その後」の次に「給与月額が改定された以上、差額追給がなされるべきであり、」を加える。

二  以上の次第で、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条、九三条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤井正雄 裁判官 伊東すみ子 裁判官 筧康生)

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